馬立駅で15分間の滞在を終え、上総牛久行きのキハ211に乗車。
乗客6名。
9時02分に牛久に着く。この先は過疎地帯で列車本数が半減し、次の列車は9時54分発。50分以上あるとなれば、次の駅まで歩いたほうが面白い。
というわけで、例によって隣の上総川間駅をめざして歩き出すが、今日は朝から猛烈に暑い。九州では記録的な豪雨で大変な被害が出てしまったが、関東はもう梅雨明けしたかのような夏空だ。ちなみにこの日の牛久の最高気温は32.9℃だったそうだが、これは日射の影響を受けない場所での観測値なので、炎天下ではこれよりはるかに高かったはずだ。
牛久の街を抜け、国道297号線に出る。ちょっとの間並行する線路は丘陵越えとなる道路を離れ、丘陵の裾を回るようにやや遠回りしている。
その線路の彼方からまもなく上り列車がやってくるはず。
来た。本当は森の中から姿を現す瞬間を撮りたかったのだが、ちょっと遅れた。
牛久の街にさしかかる列車を見送り、歩き出す。あたりからはニイニイゼミの声が聞こえ、道端の草むらではキリギリスも鳴いている。山林の木陰が嬉しい。
ひと山越えて、再び田園風景が広がると、田んぼの中にポツンと小さな上総川間駅が見えてくる。
草刈りをしているおじさんと目が合い、お互いに最初に出てくる言葉は「暑いですねぇ」。
ムクゲの花が咲く上総川間駅はトタン張りの簡素な待合小屋で、文化財にはなっていないが、いい駅である。
ニイニイゼミやキリギリスの声に加え、ウグイスやホトトギスの声も聞こえるし、カワラヒワがやってきたりもする。木立の中からアマガエルらしき声もするが姿は見えない。
駅前には田んぼが広がるばかり。
線路の向こうにも田んぼが広がるばかり。
なぜかこんなところに犬の彫刻。可愛いような、怖いような・・・。
外壁のトタンには謎のカタツムリ。なんとかマイマイとでもいうのか?
まだ次の列車まで時間があるので、あちこちにカメラを向けていると、車で来た男性に「この駅は有名なんですか?」と聞かれる。鉄道には詳しくないらしい。有名かどうか、僕も知らないが、この駅より隣の上総鶴舞駅のほうが有名ですよ、大正時代の駅舎がそのまま残っているんです、と教えてあげる。あの駅の魅力は実際に行ってみれば、誰でも理解できるだろう。車は鶴舞方向に走り去った。
上総川間9時57分発の列車に乗って、一気に6つ先の月崎駅まで移動。10時22分着。
月崎駅も文化財である。しかも駅舎だけでなく、ホームも一緒に登録されている。
月崎駅本屋及びプラットホーム・月崎駅旧下り線プラットホーム
「大正15年の第2期開業時の駅舎で、設計・施工は鹿島組(現鹿島建設株式会社)によるものです。木造平屋の切妻造で屋根は瓦葺、外観は洋風下見板張りです。駅舎待合室前面に間口2間の切妻の玄関ポーチが張り出しています。北側にあった角屋の宿直室は撤去され、現在は旧事務室と待合室からなる主屋が残ります。旧事務室は床を待合室から続く土間としています。このように駅舎内部の改造はあるものの、笠石にコンクリートブロックを用いた延長76mのプラットホームとともに、当初からの鉄道景観をよく伝えています。
旧下り線プラットホームは、延長77mです。昭和42年に月崎駅を無人化して単線とするにあたり、使われなくなりました」
この駅全体の雰囲気がなんともいえず、いい。
今は使われていない下り線ホームにはアジサイやラベンダーが植えられている。
花が咲き乱れる月崎駅。
駅舎の住民。
こんな貼り紙が・・・。
駅前のヤマザキショップでパンや飲み物を買う。この地区ではただ一軒の商店だ。ここでも店のおばちゃんと顔を合わせてお互いにまず「暑いですねぇ」。
ここでは月崎駅の硬券切符を販売していて、入場券もあったので、購入。140円。
店先に駅の忘れ物のカメラの三脚が置いてある。おばちゃんによれば、月崎駅にはプロ、アマを問わずカメラマンがたくさん来るし、芸能人もたくさん来る、テレビ局はNHKから地元ローカル局までもう全局撮影に来ている、とのこと。
さて、月崎から次の上総大久保まで歩こうと思う。
駅前の通りを南へ向かうと、分岐点があり養老渓谷方面は左となっていたが、ハイキング客用と思われる道しるべでは上総大久保駅は右で、4キロとなっている。けっこう距離があるな、と思いながら、道標に従って右へ行く。県道32号線である。
林の中に入ると、だいぶ涼しいが、日なたに出ると、すさまじく暑い。ほかに歩いている人はいない。
実は今日は東京都などが主催するウォーキングイベント「TOKYOウォーク2017」の第2回大会の日で、いつも一緒に歩く友人たちは今日も参加しているのだが、団体でゾロゾロ歩くのはつまらないので、僕はパスして、こんなところをひとりで歩いているわけだ。
旅客機が上空をよく通る。着陸するのか、離陸したのか、羽田か、成田か。よく分からないけど、よく通る。写真を撮ろうと思うが、日差しのせいでカメラのモニター画面が見えづらく、うまく撮れない。
相変わらず、ニイニイゼミが賑やかで、ウグイスがよくさえずる道をひたすら歩く。沿道には夏の花がいろいろ咲いている。僕の好きなノウゼンカズラも咲いている。
暑い中、サイクリストにもけっこう会う。すれ違ったり、抜かれたり。暑いだろうに、と思うが、それは自転車でも徒歩でも同じことだ。風を切って走るぶん、あちらのほうが少しはマシかもしれない。
かなり歩いて、そろそろ着いてもおかしくないと思う頃にトンネルがあった。
そして、トンネルを抜けたら、君津市だった。えっ?! 君津市。そんなはずはない。小湊鉄道はずっと市原市内を走り、終点の上総中野だけが大多喜町なのだ。君津市に来てしまったということは完全に方向が違う。どこで間違えたのだろう。方角もよく分からないので、太陽の位置から判断しようとしたら、ほぼ真上から照りつけている。
とりあえず、引き返す。どこかで横道に入って、山を越えれば、大久保に出そうな気がするが、ここはいったん月崎に戻ったほうがよさそうだ。
(あちこちに咲くヤブカンゾウ)
地図も何もなく、自分が今どこにいるのかもさっぱり分からない。こんな時、あとで地図を見て、自分がどこでどう迷ったのか、調べるのはひとつの楽しみである。今からワクワクする。
で、ここで帰宅後に地図で調べた結果、分かったことはあのまま歩き続けたら、久留里に出ていたということ。途中で左折して山を越えると大久保に出たのだったが、その地点にはそれらしき道標はなかったように思う。あるいは見落としたのかもしれないけれど。そこに小さな橋があり、下を流れる清流に小魚が群れているのを眺めたので、その場所の風景はよく覚えているし、細い道が分かれて山に分け入っていくのも記憶に残っているのだけれど。
とにかく、同じ道を引き返して、また月崎駅に戻ってきた。もう正午だ。1時間半近くもムダに歩いてしまった。
(駅の時計の針は正午を指している)
駅には立派なカメラを持った人が数人いて、もうすぐトロッコ列車が通ることが分かった。
上総牛久と養老渓谷を結ぶトロッコ列車は途中、里見駅のみに停車して、あとは通過だ。月崎駅にも停まらない。
時刻表をみると、次の列車は「里山トロッコ1号」。牛久を11時33分に発車して、里見は12時04分発。月崎は里見から2つ目の駅である。もうすぐ来るはずだ。
しかし、改めて時刻表を見て分かったのだが、このトロッコ列車、やたらにゆっくり走るようだ。普通の各駅停車だと牛久〜養老渓谷間は大体35分前後で走るのに対して、トロッコだと1時間近くかかるのだ。
普通なら里見〜月崎は8分なので、里見を12時04分に出た列車は12時12分頃、月崎を通るはずだ。ただ普通よりゆっくり走っているので、いつ来るのかよく分からない。
とにかく、ホームで遊ぶツバメなど眺めて列車を待つ。
12時20分になった。いくらなんでも遅すぎる。本当にトロッコ列車は来るのだろうか、という気持ちになる頃、踏切が鳴り出し、SL風の汽笛が聞こえてきた。
来た!
本当に小さな蒸気機関車みたい。
ニセSLに引かれたトロッコ列車。
駅でいったん停車して、すぐに動き出した。
なんか面白そうだ。気持ちよさそうでもある。あとで乗ってみようか。
ゆっくりと遠ざかっていったトロッコ列車を見送って、さて、と考える。
次の列車は13時26分発の上総中野行き。上りの五井行きは14時21分発までない。まだ1時間以上も列車は来ないのだった。
つづく