第72回阪神ジュベナイルフィリーズ&香港国際競走

 今年デビューした2歳牝馬による2歳女王決定戦、阪神ジュベナイルフィリーズ阪神競馬場・芝1600メートルで行われ、18頭が参戦。

 G1レースというのは、それぞれに活躍し、実績を積み上げてきた実力馬たちが集まり、本当に強いのはどの馬かを決めるところに意味があり、そこにはそれぞれの馬が紡いできた物語が一点で交錯し、そこから新たな物語が生まれるという面白みがある。先日のジャパンカップが典型的で、8つのG1タイトルを積み上げてきた現役最強馬アーモンドアイとデビューから無敗のまま三冠馬になった3歳のコントレイルとデアリングタクトが初めて顔を合わせ、この夢の対決を制するのはどの馬か、と大いに盛り上がったのだった。その結末はこのブログでも書いたが、ラストランだったアーモンドアイが9つめのG1勝利をあげ、有終の美を飾って自らの競走馬としての物語をハッピーエンドでしめくくり、初黒星を喫した2着のコントレイルと3着のデアリングタクトはそれぞれ無敗のストーリーこそ途切れてしまったが、2頭の物語はまた新たな展開を見せてくれるはずである。

 さて、そんな物語性を帯びた競馬のG1レースだが、2歳馬のG1の場合、まだレース経験の浅い各馬たち自身の物語というより、むしろそれぞれの馬の血統的背景、いわば血の物語のほうが注目されやすい。往年の名馬の子どもたちがどんな走りをし、これからどんな成績を残していくのか、この中から来年のクラシック馬が誕生するのか、そんな未来への関心からレースを見てしまう傾向がある。

 今回のレースでも新種牡馬の娘やG1で7勝をあげた牝馬ジェンティルドンナの娘が参戦したりと興味深いメンバーが集まったが、なかでも注目されたのは存在自体が珍しい白毛馬のソダシが白毛馬として初めてのG1勝利をあげることができるかどうか、だった。

 競走馬の世界で白い馬といえば、そのほとんどは生まれた時は黒ないし灰色で、年をとるにつれて白くなっていく芦毛馬で、オグリキャップゴールドシップなど活躍した馬も少なくない。オグリキャップも現役時代は濃い灰色だったが、晩年は同じ馬とは思えないほど真っ白だったし、いわゆる「白馬」も実際はほとんどが芦毛馬である。生まれた時から真っ白な白毛馬というのは極めて珍しい存在なのだ。世界的にも白毛馬がG1を勝ったという記録はないらしい。

 しかし、今回のソダシはデビュー戦で勝利すると、札幌2歳SアルテミスSと重賞(G3)を連勝、ここまで3戦全勝で来ており、今日も単勝1番人気となった。

 そのソダシ、ゲート入りを嫌がり、心配させたが、スタートすると、先行馬を見る位置でレースを進める。ペースはスロー。

 そして、4コーナーを回って最後の直線。先頭で粘るのは九州産馬として初のG1制覇をめざすヨカヨカ。外から出遅れた3番人気メイケイエールが一気に伸びてくる。そして、馬群の中から1頭だけ真っ白なソダシも抜け出してくる。さらに後方からユーバーレーベンが大外一気で伸びてきて、内からは中団にいた2番人気のサトノレイナスがすごい勢いで突き抜ける。

 一度はサトノレイナスが先頭に立ったかに見えたが、最後、ソダシがわずかに前に出て、ゴールイン。史上初めて白毛のG1馬が誕生した。


2020 阪神ジュベナイルフィリーズ

 ソダシは芦毛クロフネ産駒で、母は白毛に斑点模様があって人気になったブチコ。ブチコも実力はあったが、スタート前にゲートをくぐってしまうなど、気性に難があり、大成する前に引退を余儀なくされた。その娘ソダシはこれで4戦4勝。突然変異の白毛シラユキヒメからブチコ、ソダシと繋がってきた母系の白い血統が3代目でついに開花した。3歳になっても白星を重ねてほしい。ちなみに「ソダシ」という馬名、サンスクリット語で純粋、輝きを意味するらしい。

 

 また、あとで知ったこととして、4着のメイケイエールはオーソドックスな鹿毛馬だが、母は白毛のシロインジャ―。父が鹿毛ミッキーアイル。シロインジャ―の母はやはり白毛でG1にも出走したユキチャン。その母がシラユキヒメということで、ソダシとも近親ということになる。

 

1着ソダシ(吉田隼) 2着サトノレイナス 3着ユーバーレーベン

4着メイケイエール 5着ヨカヨカ

 

 さて、今日は香港シャティン競馬場でも国際G1が行われ、日本からは3つのレースに6頭が参戦した。

 まず芝1200メートルの香港スプリントにはダノンスマッシュとタワーオブロンドンが出走。見事にダノンスマッシュ(牡5歳、R.ムーア騎乗)が優勝。このレースを連覇した父ロードカナロアと父子制覇となった。

 続く香港マイル(芝1600m)ではこのレース連覇を狙った4歳アドマイヤマーズが3着。 

 香港カップ(芝2000m)にはダノンプレミアム、ノームコア、昨年のこのレースを含め香港G1を2勝しているウインブライトが出走し、最後の直線でまずダノンプレミアムが先頭に立つが、外からノームコア(牝5歳、Z.パートン騎乗)が差し切り勝ち。2着にはウインブライトが入り、このレース、日本馬によるワンツー。ダノンは4着。