小仏峠

 11月23日に高尾山から奥高尾の小仏城山方面を歩いた話の続き。

 標高670.3メートルの小仏城山の茶店で休憩した後、小仏峠方面へ向かう。ここからは基本的に下りである。

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 東京と神奈川の都県境の尾根を行く。前日の雨のせいでぬかるんでいる場所があり、時折、足がズルッと滑ったりする。慎重に行こう。

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 やがて左側の見晴らしが開ける場所に出た。

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 眼下に相模湖。相模川をせき止めた人造湖である。

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 ここが遠い昔、フィリピン海プレートが大陸プレートの下に潜り込む境界だった場所で、今でいう南海トラフから続く水深2,000メートル以上の海だったところである。今は眼下に湖だが、600万年ほど前は海だったのだ。そして、対岸に浮かぶ丹沢地塊が目に見えない速度で接近してきて、ここで本州に接着したわけである。もちろん、人類が誕生する前の話で、それを目撃した人はいない。仮に当時、人が暮らしていたとしても、1年間に数センチ、百年で数メートルという移動速度だから気づくことはないだろう。現代でもたとえば伊豆大島に暮らしているお年寄で、島が子どもの頃より本土に近くなったなぁ、なんて感じる人はいないと思う。でも、近づいているのだ。衝突まであと少しとなったら、数十年の間に距離がちょっとずつ近づいたことに気づくかもしれない。

 とにかく、そこにあった海は丹沢山地関東山地の双方から流れ込む土砂や岩石で埋め立てられて陸地となり、そこを今は桂川相模川が流れている。南の海の火山噴出物を主体とする丹沢層群と小仏層群の境界は藤ノ木・愛川構造線と呼ばれる断層帯となっていて、中央自動車道中央本線がここを通っている。

 ちなみに現在のプレート境界は丹沢山地の南縁、箱根の北側の酒匂川が流れ、東名自動車道や御殿場線が通る神縄断層や国府津・松田断層と考えられているが、すでに伊豆半島の南の沖合に移動しているという説もあるようだ。いずれにせよ、伊豆・小笠原弧と本州の衝突は現在もこれからも続いていくのである。

 さて、今日は雲に隠れていたが、ここからは条件が良ければ、富士山も見える。そこにあった小さな祠は浅間神社ではないかと思う。

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 ところどころ急な下りを経て、小仏峠に着いた。旧甲州街道が通っていた峠である。明治21年に高尾山の南側を迂回し、大垂水峠を越える現在の甲州街道が開かれるまではこの峠路が江戸・東京と甲州方面を結ぶ幹線ルートだったのだ。

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 茶屋の跡があり、そばに「高尾山道」の碑が立っている。寛政七年に建てられたものだ。1795年である。甲州街道を来て、ここから今辿ってきた道を経て高尾山の薬王院に参詣する人たちのための道しるべだったのだろう。

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 小仏層群の名前の由来ともなった小仏峠は標高548メートル。小仏はここに小さな仏像があったことにちなむ名前だという。

 明治13年明治天皇が山梨巡幸の際にここで休憩されたことを記念する碑が立ち、その傍らには随行した三条実美の歌碑もある。

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 戦国時代には八王子城北条氏照が武田軍への備えとして関所を置いたというが、江戸時代になると、関所は東の麓へ移されている。

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 小仏峠で高尾山から景信山・陣馬山へ通じる尾根道と旧甲州街道が交わり、景信山方面へ行ってみたい気持ちもあるが、今日はここから旧甲州街道を下る。小仏バス停まで2.8キロとある。

f:id:peepooblue:20211202213403j:plain小仏峠から都心方面の眺め)

 昔の人はこんな道を歩いていたのだなぁ、と思いながら、旧甲州街道を下る。再び小仏層群の岩石の露頭が目に付くようになってきた。

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 曲がりくねった急勾配の山道からだんだん開けてきて、林道に変わってきた。

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 道のあちこちに山火事に備えた消火用水が準備されている。

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 途中から沢沿いになり、ずんずん下っていくと、車がたくさん止まっていて、そこからは舗装道路になる。

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 小仏バス停はもうすぐのはずである。静かな山道と言いたいところだが、左上を中央自動車道が通っており、非常にうるさいのだった。

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 もう少し続く。