新緑の御岳山(その2)

 5月4日に奥多摩の御岳山に登った話の続き。青梅線御嶽駅からバスもケーブルカーも使わずに2時間歩いて、標高929メートルの山頂にある御嶽神社に参拝したところから。

 神社をあとにロックガーデンに向かう。御岳山の南側に刻まれた渓谷で、清らかな水と苔むした岩と樹木がおりなす自然豊かな散策路である。

 今日は上流側から入って、南麓の養沢方面に下るつもりだったのだが、養沢方面の道が通行止めになっているとの掲示が出ていた。なので、予定を変更して、まずは下流側の七代の滝をめざす。

 急斜面につけられた段差の大きい階段をどんどん谷底に向かって下っていく。あたりは杉林で、景色がいいわけでもないので、足元に注意しながら、黙々と下る。観光客の多くはケーブルカーで登ってきて、神社に参拝し、また引き返すパターンが多いようで、ここまで来ると、だいぶ静かになった。ただ、まったく人がいないわけではなく、下って行くと、女性グループや家族連れに道を譲られるので、僕ものんびり歩きたいのだが、どんどん追い抜いて、足早に下ることになる。

 下方からの水音がだんだん大きくなり、ミソサザイの声も聞こえてきた。先日の高尾山では声を聞かなかったので、今年の初ミソだ。姿は町田の薬師池公園で越冬個体を見たけれど、ミソサザイといえば、やはり、その歌声である。日本の野鳥界でも最高のシンガーだと僕は思う。

 沢まで下って、上養沢(バス停)方面との分岐点に出る。「この先都道崩落のため通行できません」と書いてある。

 御嶽神社から約20分、200メートルほどの標高差を谷底まで下って、水の少ない沢を渡り、巨岩を回り込んでいくと、岩が露出したテラス状の場所に出て、岩陰に七代(ななよ)の滝が水音を立てていた。

 ミソサザイオオルリのさえずりが聞こえる贅沢な場所。

 七代の滝は落差6メートルほどというが、実際には8段の滝になっていて、全体の落差は50メートルにもなるという。目の前にあるのは下から4段目の滝で、この4段目以外はほとんど人目に触れることがない。

 奥多摩の地質は主に1億5,000万年以上前の中生代ジュラ紀に深海底で堆積した地層がプレートの動きによって大陸に付加した秩父帯に属し、砂岩や泥岩、チャートなどから成り、その中により古い時代の石灰岩などを含んでいる。このあたりは砂岩とチャートの地層が接していて、非常に硬くて侵食に強いチャート層と侵食されやすい砂岩層の間に生じた段差が七代の滝を生み出したそうだ。周辺に露出している岩はチャートである。

 チャートの露岩と断層。ここでは滑落事故も起きているという。

 ここでは滝音に負けないほど大きな声でミソサザイがさえずっていた。すぐ近くにいるようだ。


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 探すと、滝の上部に突き出た枯れ枝に止まっていた。スズメよりもずっと小さな茶色の地味な鳥だが、声だけはものすごく大きい。渓流沿いにすむ小鳥なので、水音に負けないぐらい大きな声でさえずるオスだけがメスと巡り合い、子孫を残してきたので、こんなに大声でさえずるように進化したのだろう。

 写真には写っていないが、次から次へと人がやってきて、滝をバックに記念撮影をしているので、僕はとりあえずミソサザイの姿も確認できたので、滝をあとにする。ニホントカゲがいた。

 ここからは滝の上流にあたるロックガーデン(岩石園)に向かう。岩壁にかけられた鉄の梯子をいくつも登り、露出した木の根を足掛かりにしてよじ登っていく。右手の沢からそびえる木でオオルリがさえずっていて、上に行けば、姿が見つかりそうだ。

 険しい区間を抜けて、ちょっと平坦な場所に出て、山に美声を響かせる青い鳥を探すと、すぐに見つかった。枯れ木のてっぺんでさえずっている。

 ほとんど目の高さ。最初は背を向けていたが、ちょっとだけ顔を見せてくれた。

 次々と通り過ぎる人に背を向けて、オオルリにカメラを向けていたら、まもなく飛んでしまったので、僕もまたさらに登る。

 移動したオオルリはちょっと見にくい場所で、さえずり続けていた。

 急斜面を登り詰めたところに天狗岩がある。周りの砂岩が侵食され、残ったチャートが露出したものだ。岩の上に天狗が祀られ、鎖を伝って登れるようになっているが、行列ができているので、素通り。

 落葉広葉樹の新緑が鮮やかな道。

 天狗岩から反対側に下ると、ロックガーデン。苔むした巨岩が点在する渓谷の散策路。木漏れ日と風が心地よい。

 飛び石伝いに何度も沢を渡りながら、渓谷を遡っていく。ここでもオオルリキビタキミソサザイなどの声が聞こえる。

 お昼が近いので、沢沿いの岩に腰かけて、おにぎり休憩。

 15分ほど休んで、また歩く。

 地上に恐竜が闊歩していた時代に深い海の底に堆積した砂や泥や生物の死骸が岩石と化し、プレートとともに大陸の下に潜り込もうとして、潜り込めずに剥ぎ取られて大陸に付加し、凄まじい圧力を受けながら、隆起して、今はこんな山の中に露出している。壮大な地球のドラマの一場面を目撃しているのだという思いで、じっと岩に見入る。

 樹齢300年以上というカツラの巨樹。

 そのカツラの先に綾広の滝がある。岩肌を滑るように水が落ちていて、ここは水行の場にもなっている。いわば聖地だが、今は観光客しかいない。僕の前でおじさんが神様に手を合わせながら、おならをした。二礼二拍手一ぷぅ。

 ここでもミソサザイが高らかにさえずっていた。滝の上から声が聞こえるが、メスらしいもう一個体が水の流れ落ちる崖のあちこちを移動しながら虫を捕まえている。

 どうやら近くに巣があるらしかった。

 頭上でオオルリもさえずり出した。

 ロックガーデンはここで終わり。ここから滝の上流側へ登ると、御嶽神社から大岳山方面の道に出合う。大岳山(1,265m)にも登ってみたいが、今日はこのまま神社方面へ戻る。ここからはほぼ等高線に沿うような歩きやすい道だ。

 天狗の腰掛杉。

 御嶽神社まで戻った時点で13時20分。山を下って、玉堂美術館へ行ってみようと思う。

 つづく