MAGMA/K.A -Kohntarkosz Anteria (2004)

コンタルコス・アンテリア

コンタルコス・アンテリア

 フランスの音楽集団マグマの作品をひとに薦めるのはちょっと難しい。それは犬や猫やウサギみたいな可愛いペットを飼いたがっている人に野生の猛獣を薦めるような結果になりかねないからだ。僕はマグマの音楽にそんな野獣のような荒々しさと美しさと気高さを感じる。そう、世界で最も激しい音楽も、最も美しい音楽も、彼らの演奏の中にある…当然異論はあるだろうけれど、僕はそう思ってしまう。
 1967年に亡くなったジャズの巨人ジョン・コルトレーンの音楽とその精神を継承すべく結成され、1970年にデビューしたマグマはドラマー、Christian Vanderを中心に度重なるメンバーチェンジを繰り返し、80年代には活動休止、コーラスとピアノ中心のアコースティック・ユニットOFFERINGへ移行、そして1996年に若いメンバーを加えて再編され、現在もなお活動を続けている。また、1998年以降、5回ほど来日し、その圧倒的な演奏を日本のファンの前でも披露している。
 その音楽性は一般的には英国のキングクリムゾンなどと同様にプログレッシブロックに分類されるが、実際にはジャズロック的なリズムの上に、時に賛美歌風、時にオペラ風、時にゴスペル風、しばしば異様な(!)混声合唱を乗せたようなものと言ったらいいだろうか。東欧系のクラシック作曲家、バルトークストラヴィンスキーやオルフの作品との類似性も指摘されるところだ。また、しなやかで躍動感に溢れたリズムを叩き出すクリスチャンのドラムにはコルトレーン・カルテットのドラマーだったエルヴィン・ジョーンズを思わせる瞬間もある(実際、彼は少年時代にコルトレーン・カルテット加入前のエルヴィンとすでに知り合っていたといい、後には共演歴もある)。さらに、マグマの特異性を際立たせる要因として彼らがこの世に存在しない創造言語コバイア語で歌っているということも大きい。巻き舌を多用した独特の発音はなんとなくドイツ語やロシア語を思わせるが、しかし、どこの国の言葉でもない、ということは逆にどこの国でも通じる、ということでもある。彼らの歌にはそれだけの説得力がある。彼らのライブを目の前で観て、クリスチャンの歌声(彼はドラマーとしてだけでなく、ヴォーカリストとしても超一流だ)を間近で聴いた時、そのことを確信した。
 このアルバムはそんなマグマの2004年の作品。70年代に作曲され、そのままお蔵入りになっていた作品を改めて完成させ録音した3部構成で50分近い大作。これまでの長い音楽経験のすべてが反映され、なおかつ全く無駄がない。一気に聴けて、長さをあまり感じない、というか、聴き終えると、すぐにまたリピートしたくなる。僕にとっては永遠の愛聴盤になりそうな一枚。
 公式サイト(フランス語と英語)のMagma Web Radioで彼らのデビュー作から最新作まで試聴できる。http://www.seventhrecords.com/