銚子電鉄の旅(1)

 今年の夏は連日の猛暑や台風、豪雨のニュースばかりだったが、この週末は秋を思わせる晴天という予報だったので、昨日(8月18日、土曜日)、ちょっと出かけてきた。
 行きたい場所はいろいろあって、行先はなかなか決まらず、出かけた後でもまだ迷ったりしていたのだが、とにかく早朝5時に家を出た。今のところの行き先は千葉県の銚子方面。
 銚子といえば銚子電鉄。経営難で絶えず廃線の危機に直面しており、「ぬれ煎餅」の売り上げが会社の売り上げの7割を占め、煎餅屋が電車も走らせていると揶揄されるほどの笑うに笑えない状況だったが、その「ぬれ煎餅」の売り上げも下落傾向だという。そこで会社が起死回生の一策として「まずい棒」というスナック菓子を売り出したというニュースが先日、マスコミで大きく取り上げられた。僕は銚子電鉄に過去2回乗ったことがあるが、ニュース映像を見ていたら、電車がいつのまにか京王線の古い車両に置き換わっていて、また乗ってみたくなったのだった。

 というわけで、新宿から総武線に乗り、錦糸町で6時18分発の成田空港行き快速に乗り継ぐ。千葉駅を過ぎるまではまた小湊鉄道にも乗りたいなぁ、などと考えていたのだが、千葉を過ぎてようやく気持ちが固まった。途中の佐倉で総武本線の銚子行きに乗り換えようかとも思ったが、成田線経由のほうが銚子に早く着くようなので、7時22分着の成田で26分発の銚子行き(千葉始発)に乗った。
 成田以東の成田線はのどかなローカル線の雰囲気で、旅の気分が高まってきた。利根川右岸の田園風景は稲穂も色づいて、夏の終わりを感じさせる。駅に着いてドアが開くと、エンマコオロギやキリギリスの声が聞こえてきたりする。
 水郷の風情が漂う佐原の街や香取で分かれ利根川を越えて鹿島神宮をめざす鹿島線にも心惹かれたが、そのまま乗り続ける。
 下総豊里駅で上り列車と行き違いのため3分停車。
 向こうに利根川が見える。水面が見えるということは利根川下流には堤防がないということか。


 対向電車がやってきた。

 佐倉で分かれた総武本線の線路が右から近づいてきて、銚子の一つ手前の松岸で合流。向こうの丘の上に風力発電の風車がずらりと並んでいる。

 8時53分に銚子に到着。家から4時間。意外に遠かった。

 ここで銚子電鉄に乗り換え。銚子電鉄大正12年に開業した銚子と外川(とかわ)を結ぶ6.4キロの小さなローカル線で、その名の通り全区間銚子市内を走る。次の発車は9時17分。
 銚子電鉄では増収策の一環で各駅のネーミングライツを販売しており、銚子駅はこんな名前になっている。

 そして、8時58分にやってきた2両連結の電車は見ればすぐにわかる元京王線の5000系。1963年にデビューして京王線の主力として活躍し、1996年に引退した名車だが、銚子電鉄では2016年3月から走っている。京王で廃車になった後、愛媛県伊予鉄道に譲渡されて走っていたのをさらに銚電が譲り受けたのだ。京王はレールの幅が1372ミリだが、伊予鉄や銚電は1067ミリなので、台車は別の車両のものに交換するなど、いろいろな改造を受け、現在は3000形と呼ばれている。

 塗装は青い空と海をイメージしたようなカラーに変更されている。京王時代はアイボリーに赤い細帯を巻いていた。
 これが京王線5000系。京王れーるランドで保存。


 外川寄りがクハ3501で、銚子方がデハ3001。


 昭和60年の朝の連続テレビ小説澪つくし』の舞台が外川付近だったことから、この名前。

 女性の車掌さんが乗っていて、車内で一日乗り放題の切符「弧廻手形」を購入。700円。ぬれ煎餅1枚サービス券など特典あり。

 車内には僕と同じように用はないけど銚子電鉄に乗りに来た、といった風の客が多い。こういうタイプはかつては男ばかりだったが、最近は家族連れ、カップル、女性グループなど老若男女いろいろだ。みんな電車や車内の様子をカメラやスマホで撮影している。一眼レフの高級そうなカメラを持った女子というのも珍しくなくなった。
 さて、銚子を出て、僕は2つ目の観音駅で早くも下車。この駅は銚子電鉄の副業の一つであるたい焼きの製造・販売をしていたが、お店は閉まっていた(施設老朽化のため昨年3月で閉店。犬吠駅で復活営業)。


 この駅は坂東三十三か所観音霊場の第27番札所である飯沼観音・圓福寺の最寄り駅で、僕は12年前に参拝している。銚子に来るのもそれ以来だ。
 その圓福寺の本坊前を通り、銚子駅方面へ戻るように歩いて、一つ手前の仲ノ町駅へ。標高4.3メートル。

 駅の正面も背後もヤマサ醤油の工場という立地で、ここには銚子電鉄の本社がある。本社といってもビルではなく、駅舎と棟続きの古びた木造小屋といった感じの建物だ。




 ここには電車の車庫もある(150円の入場券を買えば見学可)。そして、僕が会いたかったあの機関車が今もいた。

 前回見た時は全体が黒色だったが、いつのまにか塗装が変わっていた。でも、この凸形の小さな小さな電気機関車。こんなのに乗って全国の線路を自由に旅して回りたいなぁ、なんて妄想を抱いてしまう。
 ホームにある池。金魚が泳いでいる。

 そして、もうひとつ。ここからちょっと怖いですよ。





 今は車庫で休んでいるが、夜になると走りだす「お化け屋敷電車」なのだ。これも銚子電鉄の集客作戦のひとつである。
 各駅に貼られているポスター。

 列車の反対側。

 こっちにもなんかいる!


 事情を知らない人が、夜、たとえば踏切で電車の通過を待っていて、こんな電車が通ったら、かなり怖い。
 お化けの隣で乗務する運転士の心境はどんなもんだろう? それとも運転士も幽霊の扮装をするとか?!
 とにかく、次の電車がやってきた。お化け屋敷電車と同じタイプの色違い。これも元は京王5000系かと思いきや、調べてみると、さらに古い京王2000系だという(台車と主電動機は井の頭線の旧1000系から流用)。1980年代前半ぐらいまで東京で走っていた電車で、元は前面2枚窓だったが、伊予鉄道で京王5000系にそっくりな貫通扉付きに改造されたとのこと。今は2000形と呼ばれていて、銚子電鉄にはここで並んだ2編成4両が在籍(3000形は1編成2両のみで、銚子電鉄の現役車両は全部で6両)。

 銚子電鉄では今もタブレット交換をやっているようだ。

 鉄道用語としてのタブレット(通票)とは要するに通行手形のようなもので、特定の区間にはひとつのタブレットしか存在せず、それを持たなければその区間に列車が進入できないようにすることで列車の衝突を防ぐ古典的な仕組みである。昔は全国各地で普通に見られたが、今では極めて珍しくなった。

 今度乗った電車はクハ2501とデハ2001の2両連結で、2501は「大正ロマン電車」といって内装がそれ風になっている。


 途中にある笠上黒生(かさがみくろはえ)駅はこんな漢字表記に変わっていた。スポンサーは頭髪ケアの関連企業メソケアプラス

 犬吠埼の最寄駅・犬吠まで行くつもりだったが、気が変わって一つ手前の君ヶ浜駅で下車。
 デハ2001は懐かしい姿。この緑色電車は1980年代まで京王線でも井の頭線でも走っていた。京王線井の頭線は同じ会社でも線路の幅が違うので、京王は2000系、井の頭は1000系だった。

 京王れーるランドに保存されている京王2000系。


 君ヶ浜駅ロズウェル駅になっている。調べてみると、米国ニューメキシコ州にある地名で、1947年にUFOが墜落した場所として知られているらしい。そして、君ヶ浜はUFO目撃情報多発地帯であり、銚子市はUFOで町おこしをめざし、UFO召喚イベントなども開催されているそうだ。うーむ。

 とにかく、ここから太平洋の浜辺に出て、犬吠埼灯台をめざすが、続きはまた明日。