ちょっと愛知県まで行ってきた(その1)

 「青春18きっぷ」の旅2023年夏の第二弾。8月19日(土)、どこかへ行くことは決まったが、どこへ行くかは決まらないまま、前夜は寝てしまい、当日の朝4時頃、目が覚めると同時に東海道線で名古屋まで行って、中央西線塩尻に出て、中央東線で帰ってくるのはどうだろうかと思いついた。時刻表で調べると、すべて普通列車でも余裕で日帰りできる。

 ということで、5時前に家を出て、小田急線の各駅停車の伊勢原行きに乗った。新宿からの始発電車で、混んでいて座席はすべて埋まり、立っている人もたくさんいる。歌舞伎町あたりで夜明かししたような人たちが通路の真ん中あたりまで足を伸ばして眠っていたり、スマホの画面をぼんやりと見つめていたりする。

 町田でようやく座れ、伊勢原ですぐに連絡の小田原行きに乗り継ぎ、車内がすっかり空いた新松田で下車。通りを挟んだ向かい側にあるJR東海松田駅から静岡まで直通する御殿場線の列車に乗り継げるのだ。

 駅の窓口で青春18きっぷに日付のスタンプを押してもらい、ホームに出ると、箱根の山並みとともに夏の富士山が見える。まったく雪のない富士山というのは都内からはあまり見た記憶がない。

 少し待つと、6時50分発の静岡行きがやってきた(国府津始発)。箱根外輪山の北側を酒匂川の谷に沿って上っていく。ここは南の海からフィリピン海プレートにのって北上してきた伊豆半島が本州に衝突した現場で、その断層の谷に沿って昔の東海道本線である御殿場線東名高速道路などが通っている。

 富士山が大きく迫ってきて御殿場に到着し、そこから沼津へ向かって下って行く。だんだん乗客が増えてきた。

 8時01分に沼津に到着。ここでどっと降りたが、直後に東京5時40分発の沼津止まりの電車が到着し、乗り換え客でふたたび立ち客が出るほどの混み具合になる。「青春18きっぷ」でひたすら西をめざす人も多いのだろう。このまま普通列車を乗り継いでいくと、15時13分には大阪に着き、日付が変わる頃には山口県まで行ける。

 8時09分に沼津を出た電車は富士を過ぎて富士川を渡り、東海道新幹線とほぼ直角に交差して、まもなく駿河湾沿いに出るが、高速道路に遮られて、海はほとんど見えない。窓を背にしたロングシート車で、混雑しているし、景色を楽しむ雰囲気でもない。

 静岡地区の電車は運転本数を増やすかわりに各列車の両数を減らしたので、いつも混んでいる印象があり、途中駅から乗ると大抵座れない。

 静岡着は9時02分。4分の連絡で豊橋行きに乗り換え。この電車は三島始発で、静岡に8時54分に着き、12分停車して後続電車を待っていたので、車内はほぼ満員である。当然、座れなかった。僕は鈍行列車にのんびりと揺られながら、車窓の風景を楽しむというような旅が好きなのだが、最近は地方路線でもロングシート車が多くなったし、国鉄時代に比べて編成も短くなったので混んでいることが多く、昔のような鉄道旅はだんだん楽しめなくなってきた。この列車も3両編成である。

 車内アナウンスでは「ただいま夏休みシーズン、また青春18きっぷシーズンのため、ふだんの6倍ほどのお客様にご利用をいただいております」などと言っている。それだけ混雑しているので、座席に荷物など置かず、一人でも多く座れるようにご配慮を、というわけだ。ふだんはこの6分の1だとすると、いつもは空席も目立つのだろう。これだけ乗っていても、ほとんどが青春18の客だとすれば、JRとしては有難みは薄いかもしれない。青春18きっぷの発売額は12,050円。これで期間中の5日間、全国のJRの普通列車に乗り放題だから1日当たり2,410円である。東京駅から東海道線で神奈川県の二宮まで往復すれば、1日分の元が取れる計算だ。

 まもなく安倍川を渡る。日本列島を東西に分ける大地溝帯フォッサマグナの西端にあたる大断層、糸魚川静岡構造線に沿って流れ下る急流だ。

 漁業基地の焼津でちらりと海が見えて、島田を出ると乗客が「ふだんの7倍」になった。県庁所在地の静岡から離れるにつれて、ふだんなら乗客が減るのに、今日は一向に減らないからだろう。

 ところで、僕は小学生の頃、東海道本線の駅名をすべて暗記して、さらに調子に乗って山陽本線鹿児島本線の駅名も覚えてしまったので、東京から鹿児島まですべての駅を暗唱することができた。今でも言えるかな、と頭の中で暗唱してみたら、東海道本線はスラスラと出てくる。山陽本線もけっこう覚えているものだ。ただし、その後、国鉄が民営化され、いつの間にか新しい駅が設置されて、聞いたこともない名前の駅に停車したりする。

 たとえば、静岡~浜松間は僕が覚えた頃は「静岡、用宗、焼津、藤枝、島田、金谷、菊川、掛川、袋井、磐田、天竜川、浜松」だった。これは思い出すまでもなく、今でも勝手に口が動く。しかし、現在は静岡、安倍川、用宗、焼津、西焼津、藤枝、六合、島田、金谷、菊川、掛川、愛野、袋井、御厨、磐田、豊田町天竜川、浜松となっていて、6駅も追加されている。今の小学生は大変だ。いや、こんなものは覚えなくていいのだが。でも、いるのだろうね。全部覚えてしまう鉄道好き小学生。ちなみに僕は東北本線も青森まで言えた。

 島田~金谷間で大井川の長い鉄橋を渡る。水量はさほどでもないが、先日の豪雨の影響か、水は茶色く濁っている。

 茶畑が多い牧ノ原台地を越え、これも長い天竜川の鉄橋を渡り、「ふだんの7倍」の客を乗せたまま、つまり僕は立ちっぱなしのまま、浜松に10時17分着。8分停車。

 ところで、今日はこのまま名古屋まで行って、中央本線で長野県の塩尻方面に向かうつもりだったが、途中の岡崎で降りて、愛知環状鉄道中央本線高蔵寺に出るのも面白いかなと考える。中央本線は過去に乗ったことがあるが、愛知環状鉄道は乗ったことがない。それで、そのつもりにしていたが、また少し気が変わった。いや、少しではなく、だいぶ変わった。それについてはあとで書く。

 浜松を10時25分に出て、まもなく浜名湖が見えてきた。湖から海へと水が流れ出る水路にはクラゲがたくさん浮いていた。

 東海道本線の在来線は夜行で通ることが多かったので、こうして昼間の列車で辿るのはいつ以来か思い出せないぐらい久しぶりだ。絶景の連続というわけではないが、なかなか面白い。貨物列車と何度もすれ違う。

天竜浜名湖鉄道の乗換駅、新所原

 静岡県最後の駅、新所原天竜浜名湖鉄道(旧国鉄二俣線)と合流し、愛知県に入る。新幹線が南側から近づいて、二川に停車。昔から新幹線に乗ると、車窓に見える在来線の地を這うような線路に心惹かれ、猛スピードで突っ走る新幹線よりも、のんびり走る在来線で旅をしたいと思ったものだが、新幹線から見える二川もそんな気持ちになる駅だ。ほかに東海道新幹線から見える在来線の駅だと、同じ目的地に向かっているはずなのに、ほぼ直角に交差する線路の先にある富士川駅とか、豊橋三河安城間で新幹線と斜めに交差する幸田駅が思い浮かぶ。目的地へ向かってひたすら直線的に驀進する新幹線よりも地形に忠実に曲がりくねりながら進む在来線に魅力を感じるわけだ。

(新幹線との並走区間にある二川駅

 二川を出ると、次は豊橋。10時58分着。静岡から2時間近くずっと立ったままだった(浜松で車掌が交代してから「ふだんの何倍」というアナウンスはなくなった)。

(混雑する豊橋行きの車内)

 豊橋からは4分の接続で、大垣行きの特別快速がある。別のホームからの発車で、階段を上ったり、下りたりしなくてはならない。どうせまた座れないのだろう、と思っていたが、意外にも空席があった。東海地区ならではの313系で、二人掛けの座席が進行方向に向かって並んでいる。

 慌ただしく、豊橋を11時02分に発車。すぐに名鉄の特急が右に並走し、あぁ、愛知県にやってきたなぁ、と思う。ただ、名鉄といえば真っ赤な電車のイメージだが、真っ赤ではない洗練されたスタイルの新型車両だった。

 名鉄飯田線の線路を右に見送り、豊川を渡る。このあたりで日本列島を東西に走る大断層、中央構造線を横切ったはずである。

 列車は特別快速で、座席がクロスシートのせいもあり、特急列車に乗っているような気分になる。小さな駅は通過して、蒲郡に停車。家並みの向こうに三河湾が見える。その向こうには渥美半島の山並みが連なっている。

 蒲郡を出ると、次の停車駅は岡崎である。降りるつもりにしていた駅だ。しかし、降りない。旧国鉄岡多線が第三セクターとなった愛知環状鉄道が北へ分かれていくのを見送り、さらに名古屋方面へ向かう。でも、名古屋までは行かない。

 

 つづく