宇都宮ライトレール

 日本国内で完全に新設の路面電車としては75年ぶりという栃木県宇都宮市に先週土曜日(8月26日)に新規開業した次世代型路面電車LRT=Light Rail Transit)はニュースなどでも話題になっているが、さっそく乗ってきた。

 第三セクター宇都宮ライトレールが運行し、宇都宮市と東隣の芳賀町の工業団地を結ぶLRT、宇都宮芳賀ライトレール線。全線14.6キロの路線である。

 11時頃、宇都宮駅に着き、東口に出る。

 なぜか乗り場へ降りるエスカレーターが停止していて早速故障したのかと思ったが、乗り場への入口を一つにして乗客を整理するためだとあとになって分かった。

 ヨーロッパの路面電車を思わせる、なかなかオシャレで斬新なデザインの黄色い電車。連接構造の3両編成で、全体の長さは29.52メートル。レールの幅はJR在来線などと同じ1,067ミリの狭軌

 車内は大変混雑しているようで、ホームにも行列ができている。10分ほどの間隔で運行されているようなので、1台目は見送り、次の電車の列に並ぶ。僕のすぐ後ろで男性2名が喋っているのを聞いて、一瞬「U字工事」がいるのか、と思った。訛りが全く一緒だったので。

 起点の宇都宮駅東口から終点の芳賀・高根沢工業団地まで全19駅。終点まで乗ると400円。今のところ、1日フリー乗車券はないが、近い将来の発売が検討されているらしい。

 線路は2本あるが、日中は1番線のみ使用。2番線からの発車案内には17時台の電車が表示されている。

 電車がやってきた。大勢の乗客を降ろすと、いったんドアが閉まり、運転士が反対側へ移動。その後、ドアが開いて、乗車。すべてのドアの両脇にIC乗車券のタッチパネルがあって、乗車時は下の緑のパネルにタッチ。降りる時は上の黄色のパネルにタッチする。ホームで係員が乗車方法を繰り返し説明している。

 現金の場合はホームで整理券を取り、すべてのドアから乗車できるが、下車時は運転士のいる一番前で料金箱に運賃を入れて下車するので、混雑時などは時間がかかる。なので、会社としてはできればICカードの利用をお願いしたいところだろう。実際、ほとんどの人がICカードのようだ。

 さて、まもなく発車。ゆっくりと静かに動き出すと、すぐ左へ急カーブ。曲線半径は25メートルだそうだ。「ここで脱線したんだよ」などと言う声が聞こえる。急カーブしてすぐポイントがあり、昨年11月19日、試運転中の電車がここで脱線事故を起こしたのだった。

 駅前から直角に曲がって、あとは車道の真ん中を快走する。まもなく、国道4号線をオーバークロスするが、けっこうな急勾配だ。

 五つ目の宇都宮大学陽東キャンパス停留所は大型ショッピングセンター、ベルモールの前に位置し、乗降が多い。沿線の至るところでカメラを構えている鉄道ファンがいるし、一般の乗客の多くもスマホで電車を撮影している。

(2面4線の平石停留所。線路には時折、砂利敷きの区間がある)

 電車は専用軌道に入り、車道を陸橋で越え、カーブを描きながら坂を下ると平石に到着。島式ホーム2面4線の駅で、ここには車両基地がある。発車すると、すぐに引き込み線が右に分かれ、その先に黄色い電車が何台か留置されているのが見える。脱線事故の影響なのか、ポイント通過時は減速して慎重に通過しているように感じる。

 車窓風景は宇都宮市街をあとに田畑の残る郊外住宅地といった風情に変わり、混雑していた車内も立っている人は少なくなる。僕も空席を見つけて座った。次の平石中央小学校前を過ぎると、鬼怒川を渡る。

 鬼怒川を渡ると、飛山城跡停留所。中世の城郭である飛山城は下野の大豪族・宇都宮氏を支えた芳賀氏の居城であったらしい。

 アップダウンとカーブを繰り返しながら走る電車は再び併用軌道となり、清陵高校前に停車。付近には作新学院大学などもあり、この電車もこれから通学生の足として大いに利用されるのだろう。

 不定期ながらプロ野球の試合も開催される清原球場が見えると、清原地区市民センター前。このあたりは工業地帯でもある。

 交差点を挟んで南側に下りホーム、北側に上りホームがそれぞれ島式2線で配置されたグリーンスタジアム前停留所を過ぎ、高架橋を通って車道の真ん中に進入すると、ゆいの杜西、ゆいの杜中央、ゆいの杜東と停車していく。新興住宅地に大型店舗などが点在する風景が続き、少し退屈でもある。

 宇都宮市から芳賀町に入ると、芳賀台。再び工業団地に入り、工場や研究所などが目につくようになる。芳賀町工業団地管理センター前という停留所名に象徴される味気ない風景の中をたんたんと走り、急勾配を下り、左右に美しい田園を見ると、再び急坂を登る。この区間の最急勾配はなんと60パーミルにもなるらしい。

 谷を越えると、かしの森公園停留場。そして、終点の芳賀・高根沢工業団地に到着。全区間で45分ほど。

 道路の真ん中の停留場で、目の前には本田技研の工場だか研究所だかがある。まさに工業団地の中なので、旅の目的地になるような場所ではない。一緒に降りた人の中にもここに用事がありそうな人はあまり見当たらない。大抵はすぐに折り返すようだった。

 ただ、僕は線路に沿って少し歩いてみようと思う。工業団地といっても、緑は比較的多いので、セミの鳴き声が賑やか。ミンミンゼミは少なく、アブラゼミツクツクボウシが多い。今日の宇都宮市の最高気温は東京と同じ34.6℃。暑い。

 かしの森公園の日陰でちょっと休憩。工業団地行きの電車がやってきた。

 ここから約60パーミルの急坂を下る。6パーセントだから、道路の坂としては驚くほどの勾配とはいえないが、鉄道ではめったにない急勾配である。

 坂を下ったところの田んぼで、電車を待つ。トンボがたくさん飛び交い、なかには運悪くクモの巣に引っかかっているのもいる。

 工業団地の造成が進む中で、ここだけ農村時代の風景が残されている。

 電車が来た。


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 田んぼのある谷の前後の勾配区間

 結局、次の芳賀町工業団地管理センター前で電車に乗る。満席で、最後部に立つ。

 運転台には車両の前後左右、車内の状況を確認できるモニターがある。最高速度は40キロだった。

 太陽の周りに光の輪、ハロが出ているのに気づいた。ハロと飛行機雲。

 鬼怒川。アユ釣りらしい人がたくさんいて、電車が橋を渡る間に一人が一匹釣り上げた。

 田園の彼方に日光~那須連山が見える。

 運転指令と各列車の運転士の間のやりとりが運転席から聞こえるが、混雑のせいか、ダイヤはかなり乱れているようだ。

 宇都宮大学陽東キャンパスでどっと降りて、同じぐらい乗ってくる。

 終点の一つ手前の東宿郷停留場で下車。

 歩いて、宇都宮駅に戻る。ライトレールの乗り場は乗客でごった返していて、ホームは入場規制も行われていた。そして、かなり長い列ができているのだった。

 駅の西口に出て、餃子を食べて帰る。