毎年、今ごろの季節になると、千葉県の小湊鉄道に乗りたくなる。というより、沿線の田舎道を歩きたくなる。ということで、今年も6月30日、日曜日に行ってきた。
千葉県市原市の五井駅を起点に房総半島の内陸部に分け入る39.1キロのローカル線、小湊鉄道の沿線はこれまでに大半の区間を歩いた。まだ歩いていないのは・・・。
五井~上総村上 2.5㎞
上総三又~上総山田 1.4㎞
光風台~馬立~上総牛久 5.8㎞
飯給~月崎 2.3㎞
上総大久保~養老渓谷 2.6㎞
5区間の合計が14.6キロだから、すでに踏破済みの区間は24.5キロということになる。道路が線路より遠回りの区間が多いので、実際の歩行距離はもっと長いけれど。
今回は上総大久保~養老渓谷間を中心に歩いてみようと思う。ついでに2020年に国際的に認定された地質年代「チバニアン」の地層も見たいので、最寄りの月崎駅からスタートすることにした。
4時半過ぎに家を出て、小田急の始発電車に乗り、新宿から総武線千葉行き、千葉から内房線君津行きと乗り継いで、五井駅には6時48分に到着。
小湊鉄道の1日フリー乗車券(2,000円)を購入。
乗り場への階段を下りると、まずはトロッコ車両が目に入る。観光用のトロッコ列車は機関車の故障で、現在運休中。代わりにキハ40による観光急行が運転されているらしい。
相変わらず昭和の延長のような時間を刻み続けているナショナルの時計。若い世代はもうナショナルといっても分からないだろう。
今度の列車は7時10分発の上総中野行き。7時04分に到着した列車の折り返しだ。旧国鉄~JRのキハ40の2両編成。
キハ40-4+キハ40-1のコンビ。車内は冷房が効いていて涼しい。今では当たり前のように感じるが、昔は当たり前ではなかった。昭和の夏の汽車旅というと、開け放った窓から吹き込む熱風と窓辺に乗せた腕に焼きつく陽射しが皮膚感覚として強く印象に残っている。
定刻に発車。観光客が乗るには時間が早いので、車内は空いている。
内房線から左に分かれ、宅地化の進む田園地帯を行く。進むにつれて、住宅は少なくなり、イナカ度がアップしていく。小湊鉄道に乗ると、車窓からよくキジを見る。今日も上総牛久までに田圃の畦にいるのを5羽目撃。つがい2組と単独オス。
(小湊鉄道ではIC乗車券は一切使用できない)
過去に小湊鉄道のすべての駅で乗ったり降りたりしているが、何度でも途中下車したくなる駅がいくつもある。
上総鶴舞の駅名標のローマ字表記がTSURUMAIではなくTURUMAIになっている。そういえば、小学校でローマ字を初めて習った時は「つ」は「TU」と教わった記憶があり、「TSU」という表記法は学校では習わなかったはず。
小湊鉄道は激しく曲がりくねりながら流れる養老川に沿って上流域へ向かうので、途中で何度か養老川を渡ったが、水が茶色く濁っている。一昨日(28日)の大雨の影響だろう。小湊鉄道も一時、里見から先が運転見合わせになったらしい。
上総牛久から先では唯一の列車交換可能駅の里見でキハ200の五井行きと行き違い。ここではタブレット交換も見られる。
飯給(いたぶ)~月崎間の車窓を動画撮影してみた。
月崎には8時10分着。列車のけたたましいエンジン音が遠ざかると、あとはウグイスのさえずりが聞こえるばかりとなった。
事務室の窓にサイン色紙3枚。中井精也、南田裕介、鈴川絢子。鉄分多めというか鉄の塊のような人たちばかりだ。
誰もいない待合室にツバメが1羽。巣が二つ。
駅をあとに歩き出す。駅前の通りを左へ行くと、すぐに「チバニアンビジターセンター」までの道標があり、これに従って行けばよいようだ。道標は要所ごとにあり、迷うことはなかった。
のどかな山間の田園。まさに里山の風景。こういう道ならいくらでも歩ける気がする。
道標に従って、地元の人しか通らないような細道を行く。
道端にはヤブカンゾウなどが咲き、ウグイスやホオジロの声があちこちから聞こえ、ニイニイゼミも鳴き出した。草むらからはジーッ、ジーッと虫の声がして、路上にはトカゲやカナヘビがいたりもする。トンボやチョウもたくさん飛んでいる。
今日は「草刈りの日」にでも指定されているのかと思うほど、あちこちで草刈りが行われており、草刈り機が唸りを上げている。
持田崎橋で養老川を渡る。下流部ほど水が茶色くはないようだ。豪雨で流れ込んだ土砂はもうほとんど下流へ押し流されたということか。
観光客は全く歩いていないが、時折、地元の人とは出会う。自然に「おはようございます」と言葉が出る。地域コミュニティへの闖入者として、決して怪しい者ではございませんと示す意味もある。猫と出会うと、写真を撮る。猫にとっては怪しい奴に違いない。
電線でさえずるホオジロ。
月崎駅から曲がりくねった道を上ったり下ったりしながら25分ほど歩くと、何やら駐車場があり、そこがチバニアンビジターセンターだった。
そこから通路が草地を突っ切り、奥の森のほうへ通じているが、入口に男性が1人立っている。通路は鎖で封鎖され、「立入禁止」の札が掛かっている。
その男性に聞くと、大雨の影響で川が増水し、今のところ、チバニアンの地層の観察場所に行けないらしい。現在、担当者が様子を見に行っているそうだ。
彼は愛知県からわざわざこの地層を見るために来たそうで、昨夜は千葉市内に泊まり、今朝早く列車でこちらへ来たらしい。それで立入禁止ではあまりに気の毒だ。
「あ、戻ってきましたね」
見ると、作業服姿の人が向こうからゆっくりと歩いてくる。俯き加減で、表情が険しい感じ。
「なんか、あまりいい雰囲気ではないですね」
「ダメなのかな」
さて、チバニアンの地層は見ることができるのか?
つづく